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アキレスと亀 Achilles and the Tortoise(2008年) [邦画]

監督:北野 武
出演:ビートたけし(倉持真知寿)、樋口可南子(倉持幸子)、徳永えり(倉持マリ)大森南朋(画商)、柳憂怜(真知寿‐青年時代)、麻生久美子(幸子)、吉岡澪皇(真知寿‐少年時代)、中尾彬(父)、筒井真理子(父の後妻)、大杉漣(叔父)、円城寺あや(叔父の妻)、伊武雅刀(画商)

 日本でも9月20日公開という最新作だ。9月27日(土)バンクーバー国際映画祭での上映。北野武監督の映画は14本目だそうだが、はじめて見た。たくさん人が死んだが、あっさりと様式的に描かれているので(記号化されているといえばいいのか)、怖くはない。ラストにも救いがあり、心地よい余韻がある。最後に「アキレスは亀に追いついた」ということになっているのだが、何がアキレスと亀だったのだろうか。

 以下ストーリーが入ります。

 いろいろな切り口から見ることができると思うが、世の中に認められなくても愚直に生きることが大切だというメッセージが一つ。だが、愚直と入っても、芸術の持つ狂気や非人間性も存分に描いており、真知寿は、全く自己中心的で周囲の人々に迷惑をかけどおしだ。人を死に至らしめることもあるし、他人の不幸、自分の娘の死すら何の罪悪感もなく自分の芸術の題材にしようとする。最大の理解者であった妻(樋口可南子)もついには去っていくが、それでもあきらめるということがない。しかしだからといって、芸術の世界では何も起こらない。

 最後には、真知寿は、あきらめようとしたのだと思う。自殺しようとしたが死ねなかった。そして、何もかも失ってしまったのかと思ったら、妻が帰ってくる。それで、アキレスは亀に追いついた、というのだが、この辺はちょっとわかりにくい。最大の理解者である幸子がいることの幸せに気づいた、ということかもしれないが、「気づいた」という描写はない。むしろ、愚直にやっていればそのうち誰か理解してくれるさ、という感じだ。ラストのところは意外にも予定調和的になっていて、心地はいいが、都合が良すぎる、無責任だという気もする。

 重いテーマを扱いながら全体に明るさを感じさせるのは、寓話的でリアルさがないことと、笑いのせいだ。樋口可南子の演技もすばらしい。騙されたっていいじゃない、有名になれなくたっていいじゃない、殴られたって、新聞沙汰になったって、そんなもの笑い飛ばしてしまえと。ちょっと「元気が出るテレビ」が入っている。ただ、このリアリティのなさは曲者かもしれない。ほんとうにあれだけのことが起きたら、大変な人生あるいは他人を不幸にする人生だ。警察沙汰にもなり、大怪我もしたが、ちゃんと世界の北野武になったじゃないということかもしれないが、世の中そんなにやさしくないかもよ、という警戒はしておきたい気がする。このような映画に拍手喝采していたら、その先には何もないかもしれない。

 まあ、いずれにしても、立て続けに映画館で日本の映画を観ることができて、大変満足な一週間だった。

(2008年9月30日)
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