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武士の一分 Love and Honor (2006年) [邦画]

監督:山田洋次
出演:木村拓哉(三村新之丞)、壇れい(三村加世)、笹野高史(徳平)、坂東三津五郎(島田藤弥)

 9月23日、バンクーバーのFestival Cinemas(Ridge)で夜9時半からの上映を観た。よく練られた構成で、最後にほっとさせてもらえたところもよい。英語のタイトルがこの映画の主題をすっきりと語ってくれているということに観終わってから気づいた。

 武士の一分とは、武士が命をかけても守らなければならないものであり、すなわち名(名誉)だ。この物語でもそれぞれの武士がその一分のために命をかけた。だが、この物語の主人公である三村新之丞は、武士の一分も守らなければならなかったが、同時に妻への愛情も捨てなかった。つまり武士の名誉と妻への愛の葛藤の物語であり、武士の一分ではなく「男の一分」「女の一分」でもおかしくない。だから、この映画のテーマはそのまま現代に通じるものであるともいえる。本物の武士の世界であれば、武士の一分のほうが優先されこのようなストーリーはありえなかったかもしれないから、むしろ非常に現代的なテーマを扱っているともいえるか。

 現代にあてはめれば、人はいちいちその一分を守るために死ぬことはないかもしれない。しかし、この映画は、そもそも人が生きることの意味も問うているようにも思われた。この映画では武士の名誉が価値の基準となっているが、名誉でなくてもそれぞれの人は自分の人生をかけて守るべきものがあるのではないか。映画公開時の宣伝文句もそんな感じだったらしい。映画では、最後のほうで、キムタクに「自分は間違っていた。妻を疑ったりしなければこのようなことにならなかった。知らなければよかったのだ。」という趣旨のことを言わせるのだが、「そうだろうか。それで生きている価値はあるのだろうか。」と思わせられた。キムタクの上役である小林稔侍や敵役の坂東三津五郎の潔い自裁を見せた上でそういわせるあたり、製作者は意図的にやったのかなという気がしないでもない。

 インターネット上の評価を見てみると、妻を寝取られた男の単なるうらみつらみじゃないか、とか、盲目なのに剣術の達人にいとも簡単に勝たせてしまって安易、といった厳しい感想を持った人もけっこういるようだ。しかし、最終的にキムタクが坂東三津五郎をやっつけてしまったから結果論からはそうなのだが、10回勝負して1回勝てるかどうかみたいな勝負だったと考えれば、返り討ちに遭うことを覚悟の上で果し合いを申し込んだのであって、結果は偶々だったとみるべきだろう。返り討ちにあってしまったというストーリーだって、面白くはないが全く不自然ではない。確かに騙された妻のための復讐という要素もあるが、妻を寝取られた武士の一分を守るという方が重要だと思う。ストーリー上も、剣の師匠(緒方拳)に対して「武士の一分ということ以外に事情は聞かないで欲しい」と言ったというエピソードの方が、妻が騙されていたことが判明するより前に置かれている。騙された妻のための復讐という要素は、物語をドラマチックにする効果があったことは確かだが、愛の要素のほうを強調しすぎてしまう結果にもなっており、善し悪しのところがあるように思う。

 こういった主題を取り上げた映画はたくさんあるから、よくある陳腐なストーリーといえばそれまでだが、人にとっての永遠の課題について、日本人という味付けをした上で上手くまとめたと評価したい。映画としての完成度は高いし、前を向いて胸を張って生きていこうと思わせてくれる素晴らしい映画だったと思う。

(2008年9月27日)
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